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ここはかつてコミケで細々とカモノハシの本を頒布していた個人サークルのサイトでしたが、この度、浅原正和公式サイトToothedplatypus.comとしてリニューアルしました。

哺乳類の歯・頭骨の形態進化

カモノハシ、食肉目 etc.

カモノハシの話

2013年に発表された新種のオブドゥロドン


2013年11月5日、新種の化石カモノハシ(Obdurodon tharalkooschild)が発見されたという報道がNHKを初め、多くの報道機関を賑わせました。未発表の単孔類化石はいくつかフォローしておりましたが、こちらについてはまったく存じ上げず、報道で初めて知った次第です。このHPを始めてから新種の化石カモノハシが発表されるのは初めてです(注:これは旧HP時代に掲載していた文章です)。せっかくなので当該論文を読んだ感想などを挙げてみます。

報道では「今まで知られていたものと大きく異なるカモノハシだ」という論調のものが多かったのですが、今回新種とされたものは既に知られているオブドゥロドン(Obdurodon)と呼ばれる属に含まれる新種です。Obdurodonは1970年代に Obdurodon insignis(2600~2350万年前)が発見されたのが最初で[1]、その後カモノハシそっくりの頭骨を持つ、 Obdurodon dicksoni(2350~1100万年前)が発見されました。また、それに近い仲間として南米からモノトレマトゥム(Monotorematum sudamericanum;6100万年前)が発見されています。そういうわけで、「これまで知られていたものと全く異なるカモノハシ」というわけではありません。報道を見た限りですと、見つかったのは歯の化石だけで、他のオブドゥロドンよりも大きいのは確かなのですが、歯の形態が大きく異なっているわけではないようでした。今回発見されたオブドゥロドンと同じ化石産地の近い時代からも別のオブドゥロドン Obudurodondicksoni が発見されていますが、それも現生のカモノハシよりかなり大型であり、また顕著な性的二型(オスとメスとで大きさや形に差異がある)があることが示唆されています[2]。そういうわけで、こちらとしては新しいオブドゥロドンがどのように Obdurodon dicksoniと違うとされたのかということが気になっておりました。

さて、その論文ですがJournal of Vertebrate Paleontologyに掲載されています。題名等は以下の通りです。
Pian R., Archer M. and Hand S.J. (2013) A new, giant platypus, Obdurodon tharalkooschild, sp. nov. (Monotremata, Ornithorhynchidae), from the Riversleigh World Heritage Area, Australia. Journal of Vertebrate Paleontology 33: 1255–1259.[3]

論文の内容ですが、Riversleigh world heritage areaのTwo Treesというサイトから発見された下顎第一大臼歯一本から新種Obdurodon tharalkooschild を記載しており、それをもとにカモノハシ類の進化を議論しています。
まず臼歯の形態がオブドゥロドンに似ていること、(他のオーストラリア化石単孔類と異なって)低歯冠型であり歯根が多数ということで、まずオブドゥロドンなのは確定ということです。
一方で他のオブドゥロドンやモノトレマトゥムとの違いとして、

1.大きい
2.後方舌側の咬頭がひとつだけしかない(他のオブドゥロドン&モノトレマトゥムにはあったものが痕跡化している)
3.トリゴニッドとタロニッドの間が広い

という違いがあると議論しており、そのために新種であるとしています。
ただ大きいだけなら眉に唾をつけて読んだところですが、咬頭の減少といった特徴があるのでしたら納得だなといったところです。
実際のところ、大きいといっても下顎第一大臼歯の全長が
Obdurodon tharalkooschild :11.7mm
Obdurodon dicksoni:8.71~8.51mm
Obdurodon insignis:7.2mm
本論文より引用[3]
と、大きさとしては Obdurodon dicksoniに比してそこまで大きいわけではありません(1/3増しくらい)。

というわけで、確かにカモノハシ類最大の生き物ではあるのですが、大きさよりも、歯の咬頭の減少が今回の新種の最も重要な特徴のようです。論文中では、カモノハシの乳歯(子どもの頃に存在して抜け落ちる)がより複雑であること、今回の新種が他のオブドゥロドンやモノトレマトゥムよりも臼歯形態が単純化(咬頭が減少)していることから、現生のカモノハシは他のオブドゥロドン( Obdurodon dicksoniもしくはObdurodon insignis)の子孫で、今回の新種Obdurodon tharalkooschildはそれとは別に進化した系統ではないかという議論をしています。また、発見された地層は、 Obdurodon dicksoniの発見された地層よりも新しいこと(1500~500万年前)が示唆されており、カモノハシの進化がモノトレマトゥム→オブドゥロドン→カモノハシ、といった単純なものではなく、より古い種類のオブドゥロドンから現生のカモノハシが進化した一方で、別に今回発見された新種のオブドゥロドンが派生的に進化していたことが示唆されるとも議論されています。なおオブドゥロドン(Obdurodon dicksoniを含む)の大型化は同時代の有袋類の大型化と時を同じくしており、気候変動の影響だろうと言われていましたが、今回の発見もそれを裏付けるものであるようです。

ちなみにこの新しいカモノハシの種の名前「Tharalkooschild」とは、オーストラリアの創世神話にある、メスのアヒル「Tharalkoo」の伝説から名付けたそうです。その昔、TharalkooとWater-rat(オーストラリアの半水生齧歯類)のBigoonとの合いの子として生まれた卵から不思議な生き物が孵化し、それが最初のカモノハシだった…という伝説だそうです。[4]


[1] Woodburne and Tedford (1975) The first Tertiary monotreme from Australia. American Museum Novitates 2588: 1–11.
[2] Archer et al. (1992) Description of the skull and non-vestigial dentition of a Miocene platypus (Obdurodon dicksoni n. sp.) from Riversleigh, Australia and the problem of monotreme origins. In: Augee M. (Ed.), Platypus and Echidnas. Royal Zoological Society of New South Wales, Sydney, pp. 15–27.
[3]Pian et al. (2013) A new, giant platypus, Obdurodon tharalkooschild , sp. nov. (Monotremata, Ornithorhynchidae), from the Riversleigh World Heritage Area, Australia. Journal of Vertebrate Paleontology 33: 1255–1259.
[4] Giant extinct toothed platypus discovered | UNSW Newsroom http://newsroom.unsw.edu.au/news/science/giant-extinct-toothed-platypus-discovered


後日談になりますが、2016年にはこの化石を記載した研究者たちとObudurodon dicksoniの頭骨を利用した共同研究論文を発表しています。

2013年記述 2017年修正


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